福岡高等裁判所 昭和29年(ネ)44号 判決
控訴人等は昭和二九年九月二七日午前一〇時の当審最初の口頭弁論期日に出頭しないので、控訴状記載の控訴の趣旨を陳述したるものとみなし、同期日に出頭した被控訴代理人に弁論を命じた。それによると、控訴人等は「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は「控訴を棄却する」との判決を求めた。
当事者双方の事実及び証拠の関係は原判決の「事実」に示す通りであるから茲にこれを引用する。
三、理 由
原判決説示のように各々成立を認めうる甲第一・第四号証に原審証人池鯉鮒敏夫の証言の一部(原判決で排斥している点を除く)を合せ考えると、控訴人等は昭和二四年二月二八日被控訴人に対し訴外池鯉鮒敏夫が将来被控訴人宛振出の約束手形をもつて金額金十万円の範囲内で金員を借用する債務について、同訴外人及び控訴人等連帯して弁済の責に任じ、(かつ借主たる訴外人が被控訴人との無尽契約約款により損害賠償その他の責任を負担するときは総てその責に任ずること)、利息は百円につき日歩三銭五厘とする取引期間の定のない根保証をなし、同訴外人は昭和二四年三月二日被控訴人にあて金額金十万円、満期同年四月三〇日とする外その他の手形要件の記載ある約束手形一通(甲第四号証)を振出し交付して、被控訴人から金十万円を借受けたことが認められるところ(これに反する証拠はない)単に一個の定まれる借用債務を保証したのではなく、右のような期間の定めのない取引上の将来生ずべき他人の債務につき根保証をなす者は、人情として常にその責任の過大ならざるを欲するのが一般社会の通念とせられる所であつて、借主の借用によつて生ずる債務の限度を一定の額に限定し、取引の方法に一定の制限を付するのもその保証責任を局限しようとする趣旨に外ならないのであるから、特別の意思表示のない限り約定利息及び遅延損害金(以下利息または利と略称する)に対する保証債務の範囲も、その元金と合せて前示限度額の範囲内に限らるべきであつて、換言すれば、右限度額を元金とする限りこれに対する利息についても当然保証の責に任ずるものと解するのは正当でなく、右限度額を超過する部分については元金についてはもちろん、利息に対しても保証の責任を負担せず延いてその限りにおいては民法第四四七条第一項の規定はその適用を制約されるものと解するを相当とする。もし与信者(債権者)において右の不利益を免れんとせば、前記特別の意思表示をなして利息についても保証の責任ある旨の特約を結び、あるいは、限度額をより高額とする等の手段によつて容易くその目的を達することができるのであつて、前示社会の通念や人情を無みしてまで、保証人の責任を加重するような解釈は、殊に保証人が保証料を徴するのは甚だしく異例であつて無償で保証をなすのが常であるわが国の世情に通じないものとして厳にこれを慎しまねばならないのである。
これを本件について見るに、訴外敏夫が被控訴人から借用負担する債務の限度額を金十万円に限定し、その債務負担の方法を同訴外人の被控訴人宛に振出す約束手形によるものに局限したことは先に認定した通りであり、利息については右限度額金十万円を超過する場合でも保証人においてその責任を負う旨特約したことはこれを認むべき証拠がないので、控訴人等の責任は元利を合せ金十万円の限度にとどまるものといわねばならない。もしこれを反対に解し、限度額を元金のそれとし、元金十万円の限度においては、その利息についても前示特約がなくても保証の責任があるとの見解を採るとすれば、例えば、本件のように主債務者が最初から元金十万円を借用したとすると、その時既に該元金に、弁済期までの利息を加えた限度額を超ゆる借用債務につき保証責任を負担することとなるのであるが、こは冒頭認定の根保証の趣旨(甲第一号証参照)に反することは明白である。しかし、その点は暫くおいて、右設例において、借用元金の未払利息金一万円を残して元金十万円だけが弁済された後、更に新たに元金十万円を借用したとすると、この新たな金十万円とその利息及び先の未払利息金一万円に対しても保証の責任があることとなるのである。
しかしながらかような結論に導く解釈は、利息とはいえ借用債務たることに変りはない右の金一万円を借用債務にあらずと強弁するものに外ならないのであつて、保証の責任額を限定しようとする前説示の根保証の趣旨に副わないことは否定さるべくもないのである。
しかして、被控訴人の本訴遅延損害金百円につき日歩四銭の請求は冒頭認定の貸借に附随して約定せられた特約ありとし、その履行を求めるものであるところ、仮りに主張のような特約があつたとしても、該損害金は前認定の貸金元金十万円と合算し控訴人等の連帯責任の最高額たる前示限度額金十万円の内に含まるべきものであるばかりでなく、右特約を認むべきなにらの証左もない。
(附言すれば、前示認定の百円につき日歩三銭五厘の約定利息は旧利息制限法の制限利率を超えるので、同法の制限に従い被控訴人は控訴人等に対し右元金十万円に対する年一割の割合による遅延損害金の連帯支払を求める債権を有することになるのであるが、控訴人等の責任の範囲は、右元利を合算して限度額金十万円に限定せらるべきことは先に説明したことによつて了知すべく、また被控訴人が将来控訴人等から弁済された金員を元利金のいずれに充当するかは、主債務者敏夫に対しては消長する所ありとしても、控訴人等にとつては影響する所はない。)
従つて被控訴人の本訴請求は金十万円の限度において正当として認容しその余は失当として棄却すべきであり、これと一部符合しない原判決はこれを変更の要あるものとする。
よつて民事訴訟法第三八六条・第九六条・第八九条・第九二条・第九三条を適用し主文の通り判決する。
(裁判官 桑原国朝 後藤師郎 秦亘)